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知能の源は、記憶力の悪さ
あなたは、
「コンピュータみたいに、一瞬にして正確な
記憶をすることができたらなぁ……。」
こんなことを考えたことはありませんか?
おそらく、一度くらいはあると思います。
しかし、実際には、そんな完璧な記憶力が無いからこそ、
人間の知能は優れているのです。
人間の記憶力は動物に敵わない
ではなぜ、記憶力が悪さが知能の高さに貢献するのでしょうか?東京大学で脳の研究を行っている池谷裕二さんは、
著書の「進化しすぎた脳」のなかで次のように言っています。
人間の脳では記憶はほかの動物に例を見ないほどあいまいでいい加減なんだけど、それこそが人間の臨機応変な適応力の源にもなっているわけだ。
なんと知能の発達した生き物であるはずの人間の記憶が、
「ほかの動物に比べて例を見ないほどあいまいでいい加減」
だと言うのです。
そして、それこそが人間の適応力の源だということです。
完璧な記憶は役に立たない
どういうことでしょうか?もう少し説明してもらいましょう。学習のスピードがあまりに速いと、特徴を抽出できない。たとえば、君らが池谷という人間を記憶する過程を考えてみようかな。いま僕は正面を向いて立っているでしょ。その姿だけを見て「これが池谷」というのを写真のように覚えちゃったとするでしょ。そうすると、次に僕が右を向いたら、その姿は別人になっちゃうよね。そこで、「右を向いた姿こそが池谷だ」と、もう一回完璧に覚えなおしてもらったら、こんどは右向きの姿だけが池谷になっちゃって、正面は違う人になっちゃうでしょ。
なるほど。
確かに、写真のように正確な記憶力では、
少し状況が変わっただけで対応できなくなってしまいますね。
他にも、例を挙げてもらいましょう。
もっと端的な例では、文字がそうだ。僕が黒板に書いた字は汚い。でも、みんな読めるよね。これだって、「文字の特徴はこうだ」という共通のルールがあるから読めるんだよね。
なんとなくわかってきたかな。基本的に完璧な記憶というのは役に立たないんだ。それで、脳というのはあいまいにものを蓄えようとしているんだね。
確かにそうですね。
同じ「あ」という文字でも、書く人によって個性があります。
それを写真のように完璧に記憶していたら、違う人の書く字を
「あ」という文字だと認識するのは難しいでしょう。
知能の源は、記憶力の悪さ
では実際には、どのように顔を覚えたり、さまざまな個性のある字を読んでいるのでしょうか?
人間の脳は、学習のスピードを遅くして、
共通点を抽出しているそうです。
もし、学習のスピードが速いと、表面に見えている、目に見えたものだけに振り回されてしまって、その奥にひそんでいるものが見えてこなくなっちゃうのね。
みんな勉強してて、なかなか覚えられないな、と苦労することがあるかもしれないけれども、それはこのこの脳の作用の裏返しなんだよね。しょうがないんだ。ものごとの裏にひそんでいるルールを確実に抽出して学習するためには、学習のスピードが遅いことが必須条件なんだ。そして、繰り返し勉強することもまた必要なんだね。
まとめると、完璧な記憶というのは、少しでも状況が変わると
役に立たないものなので、人間はあえてゆっくり記憶することによって、
共通点を見つけ出して学習しているということですね。
そして、この学習方法によって、表面的な見せ掛けに惑わされずに、
ものごとの裏側にある本質を理解することができます。
(「本質」と「ものごとの裏にひそんでいるルール」が、
必ずしも、一対一で対応するものだとは限りませんが、
ここでは便宜的に本質という言葉を使います。)
これこそが、人間の高い知能の源なのでしょう。
本質が大切
これまでに、記憶の正確さという観点から、人間の知能の高さの要因について考えてきましたが、
本題はここからです。
人間は、動物のような完璧な記憶力を持たずに、
共通点を見つけ出すことによって、臨機応変に対応できる
高い知能を身につけることができたと書いてきました。
にも関わらず、少なからぬ人が、勉強というと、
「正確に覚えること」だと考えているように感じます。
例えば物理であれば、公式を暗記して、その公式を使って
計算するものだと考えている人も多いようです。
しかし、本当に大切なのは、公式の裏にひそんでいる
物理の考え方を学ぶことでしょう。
(これが物理の勉強の本質でしょう。)
そうすることによって、応用力が身につくのです。
例えば、物理で共通して利用される、
数式やグラフを用いて考える方法を身につければ、
まったく新しい状況でも、その考え方を活かせるはずです。
公式の暗記だけでは、それが適応できない事態に陥ったら、
せっかく覚えた知識も何の役にも立ちません。
しかし、物理の本質を理解していれば、
新しい状況に対応する方法を自分で考えることができるのです。
見せ掛けに惑わされるな
しかし、本質が大切なのは、なにも物理に限った話ではありません。例えば歴史であっても、年表の暗記だけでは、
(たとえ完璧な暗記であったとしても)普通の人にとっては
ほとんど役に立たないでしょう。
年表以上に大切なのは、
「その事件はなぜ起こったのか?」
「その出来事の失敗の原因と成功の原因は?」
「その出来事が人々に与えた影響は?」
といったことではないでしょうか?
そして、人間が繰り返してきた失敗の共通パターンを見出して、
そのパターンから抜け出す方法を考えたりするのも有意義でしょう。
(もちろん、これらのような理解に加えて、
詳細な年表の暗記があれば鬼に金棒なのは間違いありません。
しかし、年表の暗記だけではほとんど役に立たないでしょう。)
共通して言えるのは、表面的な知識の記憶のみでは
あまり役に立たないということです。
その知識の裏にひそむ本質を理解してこそ意味があるのです。
暗記自体が悪いわけではない
ただし、決して暗記自体を否定するつもりはありません。例えば、名著と呼ばれるような本を暗唱できるくらいに読み込めば、
その結果として本質を理解し、しかも繰り返すことによって、
本質が身につくことが期待できるからです。
それは、素晴らしい人生の糧となるでしょう。
問題なのは、その文章の本質を理解することを怠り、
単純に暗記することだけに終始してしまうことです。
いくら文章を暗唱できても、暗唱している本人が、
内容をまったく理解しておらず、意味不明な呪文を
唱えているような状態では仕方がありません。
つまり、暗記自体が問題なのではなく、
暗記することだけで満足してしまい、本質の理解が伴わないと、
あまり役に立たないということです。
まとめ
最後に、全体をまとめておきましょう。まずはじめに、池谷さんの「進化しすぎた脳」を引用しながら、
人間の記憶は、正確さにおいてもスピードにおいても動物に敵わないが、
それは表面的な知識をそのまま記憶するだけでは、状況が変わってしまうと
対応ができなくなるからで、大切なのは共通のルールを覚えることだ。
ということを書いてきました。
そして、
勉強をするときは、人間の記憶のメカニズムに逆らって
ただ表面的な知識を記憶しようとするのではなく、
本質の理解が大切だ。
と主張しましたが、
決して知識の記憶自体が問題なのではなく、
本質の理解を疎かにして、表面的な知識の暗記に
終始するのが問題だ。
ということを書いてきました。
いつも書いていることではありますが、バランスが大切ということでしょう。
あなたが今後何かの学習をするときは、
このようなことを意識してみると良いかもしれません。
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